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スリック史(その3)

1958年の「日本カメラ年鑑」には、マスターよりも大型の機種として「スタジオプレス」という製品が掲載されています。また、スタジオ用大型スタンドというスタンドも1960年代のごく初期のみ製造されていたようです。これらの製品も数年で淘汰され、マスターの大型判ともいえる「プロフェッショナルデザイン(初代)」が1961年にデビュー。

大型・中型・小型のラインナップが揃うこととなります。

 

1960年代のスリックは海外への輸出もスタートし、アメリカでは、消費者向けの評価を書いた雑誌「コンシュマーレポート」で、フランスの高級三脚メーカー「ジッツオ」を超えてスリックが高評価を得ました。スリックのアメリカでの販売は、「バーキーマーケティングカンパニー(BMC)」が行いました。

スリックは後年BMCの崩壊により、1990年代にスリックアメリカを設立、さらにスリックアメリカをトーカドアメリカ(ストロボの「サンパック」を販売)に譲渡し、現在ではケンコーグループのTHKによる販売を行っています。

 

さらに1965年、スリックベビーからのモデルチェンジで「グッドマン」がデビュー。

「グッドマン」という製品名は、その後の派生機種もたくさん出ることとなり、スリックの中でも有名な製品名として残っていくことになります。

(国内ではグッドマンデジタルが最終型となりましたが、海外ではグッドマン111というモデルを中国で販売中です)

 

スリックの創業の土地は文京区本郷。本格的に三脚を量産したのは板橋区に移転したあとですが、1967年、さらに工場を大幅に拡大するために埼玉県日高市(当時は埼玉県入間郡日高町)に移転することとなりました。今、スリックの本社があるところです。

 

会社は1963年にスリック・エレベーター三脚株式会社から「スリック三脚株式会社(SLICK TRIPOD CO., LTD.)」に名称を変更。1967年の日高移転と同時に、販売部門を分社化「スリック産業株式会社」としました。

 

さらに、1967年には世界に先駆けてスリックが製品化した「クイックシュー」、スリックの名称では「カメラアダプター(2000年で製造を終えており、現在では販売をしていません)」を搭載した三脚「グッドマンエース」がデビューします。

 

マスターの上位機種である「マスターデラックス」も1967年の発売。

グッドマンエース、マスターデラックスの2つが、通産省の選定であった「グッドデザイン賞」を受賞しました。

この頃のスリックは三脚以外の製品にも拡大を計画。カメラに取り付ける「クリップオン式ストロボ」も製品化しました。雑誌広告にも積極的で、当時まだ有名ではなかった岩下志麻をストロボの広告に起用しました。しかしストロボへの進出は不発に終わり、1970年代には三脚専業に戻っています。

 

 

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スリック(SLICK)グッドマンエース

Gマークの証紙をつけて販売された

 

1960年代製品:マスター3段(二代目 1960年代前半-1967 ¥9,800)、マスター2段(二代目 1960年代前半-1967 ¥7,800)、ベビー5段(1960-1962 ¥4,350)、スタジオ用大型スタンドI(¥140,000)、スタジオ用大型スタンドII(¥100,000)

プロフェッショナルデザイン3段(1961-1971 ¥28,000)、スタジオプレス?3段(1962-1963 ¥60,000)

ニューベビー3段(1962-1964 ¥4,900)SL-16 8段(1964-1965 ¥1,950)

グッドマン3段(1965^1970 ¥4,800)

マスターハーフ3段(1966-1969 ¥9,800)グッドマンハーフ(1966-1969 ¥4,800)

グッドマンエース4段(1966-1983 ¥9,400)

グランドプロフェッショナル(1967-1982 ¥69,800)

 

1970年代以前の製品として、初のレバーロック式三脚となる「トニカ」「SL-53」「チャンネルマスター」といった機種がありました。当時の高級三脚として、旧西ドイツ製の三脚で、大判カメラメーカーである「リンホフ」が出していた「リンホフ三脚」がありますが、リンホフ三脚は他社と異なり、丸パイプではない「チャンネル材(断面はコの字形状)」を使用したレバー三脚でした。そのリンホフ三脚の構造をそのまま取り入れたものでした。雲台はマスターやグッドマンのものを流用しており、脚部の斬新なデザインとはミスマッチなものでした。これらの製品は数年で姿を消します。恐らく、当時の製造技術からは難しいものだったのでしょう。

 

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スリック(SLICK)SL-53

 

また、当時のスリックが発表した革新的な製品の一つの「スリック アクション」があります。今の「AF-2100」につながる、グリップ式の雲台です。カメラの取付はクイックシュー式。グリップを握ると構図を自在に変更でき、手を離すと固定するというものですが、固定には油圧を採用。雲台単体の価格が当時の「スリックマスター」とほぼ同額であったこと、油漏れの対策が難しかったことから、この製品も短期間のみで製造を終えましたが、後の「AF-2100」の元となりました。

 

1971年、スリックマスターの雲台サイズを拡大。今のサイズとなりました。また、1971年当初は雲台のパンハンドルを中空にし、ケーブルレリーズを通して、カメラのシャッターを切ることができる「リモコンパン棒」を装備しました。しかし、レリーズとパンハンドルが一体化するというアイデアは、シャッターを切るときにブレが起こるということで1年ほどで雲台のパンハンドル取り付け部の長さを変更の上、雲台前面の穴を閉じるように設計変更されました。しかし、これも1年ほどで雲台前面の穴を復活しています。(加工時のアルミの粉=切り粉が溜まる問題が起こるのを避けるためです)

 

1970年代のもう一つのトピックは、スリックのアイデア製品である「システム三脚」が発売となったことです。

マスターの一回り小型の製品である「グッドマン」をベースとした、パイプ径26mmの三脚で、ローアングル用、ハイアングル用、一般タイプなど、様々な仕様のものをラインナップし、さらに、脚パイプを交換用として、段数、長さなどを違えたものも用意。エレベーターも様々な長さのものと、ローポジション用のアダプターも用意。石突も通常のゴムから交換する2ウェイ石突、山岳スパイク、平面にピッタリ接地できるユニバーサル石突なども用意しました。さらに脚パイプの表・裏を逆に組み替えればローポジションにセットできるなど、ユニークな設計でした。

ラインナップ:

グッドマンS-101(ローポジション専用、2段。雲台別売 ¥5,500 1972-1981)

グッドマンS-102(ハイアングル用、2段。バル自由雲台付属 ¥11,500 1974-1980)

グッドマンS-103(標準的な仕様の3段。フリーターン雲台付属 ¥6,300 1972-1988)

グッドマンS-104(旅行用の4段。偏芯式フリーターン雲台装備 ¥8,300 1973-1988)

グッドマンS-105(旅行用小型5段。アダプター式フリーターン雲台付属 ¥7,000 1973-1981)

グッドマンS-205(旅行用小型5段。アダプター式フリーターン雲台付属、エレベーター2段式でエレベーターの伸縮はレバー式。これは後で追加されたモデル。 ¥13,500 1977-1980)

システム三脚と同時に複数のカメラを一台の三脚に取り付けするための「マルチアーム(初代)」、鉄道写真撮影に人気の高い「プレート」、脚パイプにカメラを取り付けできる「ロアー」も製品化しました。

しかしながら、小型の三脚のシステム化は「三脚メーカーの考えすぎ」あるいは「行き過ぎ」であったようです。ベースとなる三脚「S-103」や「S-104」はそこそこの販売数を記録したものの、脚パイプなどの専用アクセサリーパーツの売れ行きは芳しくなかったようで、最終的には2機種の三脚を残して順次販売を終えていきました。(S-103、S-104は1988年まで販売を続けました)

 

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