三脚活用術

Topics

ホーム 三脚活用術 三脚の知識(その1) 脚パイプの素材

三脚の知識(その1) 脚パイプの素材

たまに、雑誌などで、「過去に使っていた三脚はスチール製ですごく重い」などのマチガイが平気で書かれています。

「スチール製の三脚ですごく重い」という文章のどこが問題でしょうか。問題は「スチール」という部分。写っていた三脚はちょっと古めの製品で重厚感がありますが、脚パイプはカーボンなどでなければ、「アルミ」です。

よく「オレの三脚は重い鉄製だ」という人がいますが、鉄(=スチール)製の三脚はほとんどありません。(一部ステンレススチールのパイプのものがあるようですが、一般的ではありません)

私の推測ではおそらく、動画・映画用の三脚を「ムービー用三脚」とするのに対する静止画用三脚の意味で「スチール写真用三脚」を略し、「スチール三脚」といったのを何かの誤解で「鉄の」と理解した人がいたのでは?というものです。

 

超重量級三脚「グランドプロフェッショナル」の脚パイプもアルミ。

 

 

 

tripod1_b300.jpg

1960年代から1988年まで販売していた超重量級(10kgオーバー)の「グランドプロフェッショナル」。脚パイプの素材はもちろん鉄ではなく「アルミ」です。

 

1970年代の軽量三脚「グッドマンジュニア」の脚パイプもアルミ

 

 

 

 

tripod_c300.jpg

 

 

スリックの三脚は、戦後すぐにスリックの名前を使う前のブランド「アルプス三脚」として、木製の三脚を作ったのが始まりです。スリックの創業者はアメリカ進駐軍が持ち込んだ「ハスキー三脚」を見て、三脚造りを志したそうですが、木製の三脚を1948年から製造し、1953年にはアルミ三脚の第一号を創りあげたという記録があります。

 

三脚の脚パイプの素材は「木」→「アルミ」→「カーボン」と進化しています。

(スリック三脚として「木」の三脚はありませんが)

 

まあ、これはプロ用三脚についてで、コンパクトカメラ用の三脚で「8段」や「10段」などの「ダボ式(アンテナ風の造りのもので、引き出したパイプから小さいダボが飛び出して固定されるもの)」は、素材に真鍮を使ったものがあります。

 

三脚の脚パイプのアルミ素材は長年の技術革新により、進化しています。

スリック三脚の脚パイプでの比較では、1970年代の「スリック マスター」はパイプの肉厚が約1.2mmでした。1988年に、パイプ同士の空転防止のために、溝入丸パイプに進化したとき、パイプの肉厚を1.1mmとしました。これだけでも、わずかですが軽量化につながります。

 

グランドマスターII(2000年-)のアルミパイプ

 

 

tripod_c2300.jpg

1983年発売の「グランドマスター」は押し出し管のアルミパイプを採用していましたが、1988年以降、電接管を採用。元々肉厚1.2mmパイプだったものが電接管の採用以来、1.1mmとなり軽量化。(グランドマスターの1988年以前に製造のものはパイプの規格が異なるため、修理ができません)

 

1976年に発売の「スリック500G」では、軽さにチャレンジするため、それまでのパイプの製法である「押し出し管」から、「電接管」へパイプの製法を変更しました。

溶けたアルミ原料を型に流し込み、押し出して作る「押し出し管」はパイプの厚みがどうしても厚くなります。500Gは、「重さ500G」を実現するために様々な工夫を行いましたが、その一つが「マグネシウム配合のごく薄いアルミ板を連続的に溶接し、パイプ形状にする」電接管の採用でした。500Gではパイプ肉厚を0.6mmとすることで、大幅な軽量化を実現しました。

1996年には、さらなる軽量化素材として「A.M.T.パイプ(アルミ・マグネシウム・チタニウム合金)」を採用しました。アルミにマグネシウムとチタンを添加することで、大幅に強度をアップ。500Gのときの電接管と同じ製法ながら、強度をアップし、中型三脚、大型三脚での使用を可能にしました。パイプ肉厚は0.8mmです。

 

スリックA.M.T.合金。肉厚0.8mmで軽量化を実現した金属製パイプの三脚。

 

 

tripod_d300.jpg

1996年の「プロ 700 DX」以降に採用した、A.M.T.(アルミ・マグネシウム・チタニウム)合金製パイプ。スリック独自の素材で、このクラスでは他にないコストパフォーマンスを発揮しています。

 

カーボンは原材料が高く、さらに「価格が高い」というデメリットがあります。カーボンパイプの加工は難しく、パイプに直接ネジを切れないため「ネジリング」と呼ばれるネジを切ったリングを接着する必要があります。組み立ての手数も価格の高さにつながります。しかしながら、軽さが魅力のため、スリックでは旅行用から超大型まであらゆるラインナップを用意しています。

 

第三世代ARSカーボンパイプ

 

tripod_h300.jpg

カーボンマスターシリーズ、カーボンスプリントシリーズ、カーボンEXシリーズに採用の、新しいカーボンパイプ。表面は研磨しスムーズな伸縮を実現。内部構造により、パイプ同士の空転を防いでいます。(ARSシステム)

 

 

tripod_e300.jpg最初のカーボンパイプ(塗装)

 

tripod_f300.jpgクリア塗装に変更後の初期パイプ

 

 

 

tripod_g300.jpg表面研磨を施した第二世代パイプ。

 

三脚の軽量化に対して、「三脚は重さで選ぶもの」と思っておられる方がおられるようです。三脚は重ければ重いほど丈夫・・・一見間違いではないようですが、三脚自体の軽量化の結果、一概にはそういえなくなっています。

 

そこで、三脚を選ぶ基準として「最も大きい部分の三脚のパイプ径」という基準を挙げたいと思います。平均的な三脚のパイプ径が28mm前後で中型。それに対して24mm程度が小型。中型なら一般的なAPS-Cデジタル一眼レフカメラに300mmクラスの望遠レンズを組み合わせたものに対応できます。小型なら、エントリーレベルのデジタル一眼レフ+200mmクラスのものにちょうど合うくらいのサイズです。

 

カーボン三脚を使うと「重心が高くなって安定しづらくなる」という問題があります。そこで、一部のカーボン三脚には付属、別売りでも用意していますが「ストーンバッグ」というものがあります。

「軽い三脚を、ストーンバッグを使って補強する」と書かれている紹介を見たことがありますが、正しくは補強できません。三脚の強度といいますか、タワミに対する力は三脚自体の「造り」の問題です。ストーンバッグは、三脚に取り付けて石などのオモシを載せることで重心を下げ、三脚全体の安定度を高めることにつながります。

ストーンバッグは必需品ではありませんが、機材に対して重心が高く、安定しないときには便利なアイテムです。

 

軽量三脚の重心を下げる「ストーンバッグ」

 

tripod1_a300.jpg

カーボン三脚など、パイプが太くてしっかりしている三脚でも、カメラ機材の重量が重く、重心が高くて不安定さを感じることがあります。パイプに取り付けて重石を入れる「ストーンバッグ」があれば、重心を下げて安定性を高めることができます。

 

※この記事は「全連通報」(全日本写真材料商組合連合会の機関誌)に連載している「売り上げ増につながる!写真用品の知識」を一般向けに加筆・修正したものです。

内容の引用等、ご活用ください。